【笑農人vol3】有限会社米山農産 代表取締役 米山義隆さま

富山県下新川郡入善町新屋。北陸自動車道の入善スマートICから北陸新幹線ルートに向かって1.5Kmほど進むと、一面ののどかな田園風景に堂々と建つ新幹線の高架橋に沿い、行儀よく整列した『有限会社米山農産』のビニールハウスが並ぶ。ハウスに面した事務所で、がっしりとした体躯の米山義隆さんのやさしい笑顔に迎い入れられた。

 

■海外4か国にお米を輸出

コロナ規制前の2020年1月、義隆さんは『米山米』PRのために初めてN.Y.の空港に降り立った。着いた時から、見るものすべてが刺激的でエネルギーに満ち満ちている印象のN.Y.の街で、富山からお米を輸出する仲間と一緒に販売促進イベントに参加し、お客様となる日系販売店の方々に『米山米』を生産する農家としての思いを伝えていった。米山農産では、自社サイトやInstagramを活用して積極的に広報活動を行い、ECサイトでの販売にも力を入れている。しかしながら、直接顔を合わせて言葉を重ねることに意義があると、義隆さんは考える。自分たちが、どのような自然条件の下、どのような設備を使って、どのような仲間たちと何を大切に思いながら生産しているかを知ってもらうことによって、『米山米』をより身近に感じ、安心して購入していただくきっかけになる、と信じている。世界のどこかで出会いを待っているであろう将来の『米山米』のファンのために、直接伝えることを大切にしている。

「豊かに富んだ山、富山で育ったお米の山、米山のお米、いいでしょ?」と義隆さんはチャーミングに笑う。確かに印象に残るネーミングである。

その一ヵ月後の2月には、販路開拓のために何度も訪れている台湾を再訪。すでにコロナ流行の影響で入国が厳しくなりかけていた。台湾では、2016年に友人の縁故というか細いツテを頼って赴いて以来、視察を繰り返してきた。生まれ育った地元とは異なる水、気候で育つ固有品種のお米や農産物、そしてそれを6次化して提供する飲食店の状況に接しながら、なんとか輸出のチャンスはないかと探し歩き、ようやく念願の海外輸出の手掛かりを手繰り寄せることができた思い出深い地である。今では、行けば必ず利用するドライバーや馴染みのお店もできた。今回も台湾の変化を把握し、新しいお客様とも直接お会いして思いを伝えることができた。

さて次は、まだ商用では訪れたことのないシンガポールに乗り込もうと意気込んでいた矢先、コロナ蔓延による海外への渡航規制が本格化した。

あの日から一年間、時間が止まった。

けれども、義隆さんは諦めていない。遠からず来るその日を待ち望みながら、満足のいくお米を育て続けている。

■地元に戻れ

米山家は代々続く稲作農家。それゆえ自然な流れとして、家族からは農家を継ぐものとして期待され、義隆さん自身も将来は農業が自分の仕事になると自覚しながら育った。地元高校の農業科を卒業したのはバブルの華やかな雰囲気が漂い始めた頃。地方育ちの若者には都会に憧れて進学したがる者も多かった。義隆さんもご多分に漏れず、東京の大学に進みたいという思いもあった。しかしながら、これを見越した両親が「一度都会に出ると地元に戻って来なくなる」と先手を打って進学先を勝手に決めてしまったため、それに従うしかなく、長野県の原村にある農業実践大学校に入学した。標高1300mに位置する八ヶ岳山麓にある広大なキャンパスで、二年間、実践を通して野菜の栽培を学んだ。春から秋にかけてはレタスやキャベツなどの高冷地野菜、冬はマイナス20度の極寒に建つハウスの中でセロリを育てた。野菜の生育には休みがない。来る日も来る日も、土をつくり、種を播き、成長に合わせてポットを植え替え、定植し、水や肥料を与えて収穫する。体力的にも厳しく、在学中は帰省もままならなかった。この環境を『檻(おり)のない監獄』と口さがなく呼ぶ同級生たちもいたほどだ。

 

■地元で働く

大学校を卒業して地元に戻った義隆さんは、帰郷を待ち望んでいた両親と一緒に、稲作農家としての人生を始めた。地元の青年団にも加入し、活動の中で奥様と出会い結婚もした。今から振り返ると、親の庇護の下、好き勝手をさせてもらい見聞を広めた時期だったと思う。それなりに、ひとつひとつのことに取り組んではいたが、農業に対して真剣に向き合っていた訳ではなかった。

その頃、周辺では少しずつではあるが、高額な農業機械の更新のタイミングで、代々の稲作を諦める農家が出始めていた。当時の米山家はまだ、圃場の所有が1haほど。貸借農地での耕作を含めても13haほどだったが、徐々に家族だけでは人手が足りなくなってきていた。家族以外の人を雇い入れるにあたり雇用環境の充実と安定を図りたいとの思いから、1993年に父が代表となり『有限会社米山農産』を設立した。まだこの地域で法人農家は少なく、個人農家が法人化する先駆けとなった。

そうして20代後半の義隆さんは父の「目指せ!20ha」の号令の下、従業員たちと一緒に耕作面積を増やしていった。また並行して、すでに仲間入りしていた農協青年部の活動に加え、40代半ばからは誘われて入善ライオンズクラブにも加入し、着実に次期経営者としての準備を整えていった。クラブの活動を通して、これまでには出会うことがなかった農業分野以外の領域で活躍されている民間企業の経営者たちと交流することによって、その言動を間近に見聞きしながら、経営者が備える論理性や戦略性、共感性がもたらす周囲への影響とそれを裏打ちする知識やスキルを吸収していった。

2011年には満を持して『有限会社米山農産』を引き継いだ。こうして、父を含めた祖先の足跡を守りながら、これまで学んできたことを活かし、経営者として成し遂げたいことに挑戦する日々が始まった。まずは、稲作の育苗設備を利用して、農閑期のハウスで葉物野菜や白ネギ、大カブ、大根などを栽培、出荷を始めた。加えて、育てた大根と米ヌカを利用して、地元に継承されている『あおしま漬け』の加工生産にも取り組んだ。自社サイトを開設して、農産物はECサイトを通じて県外にも広く販売し、海外輸出も積極的に進めてきた。外国の方にも知ってもらえるよう、自社サイトにはカナダに住む妹と姪たちが翻訳してくれた英語ページも加筆した。

もちろん、すべてが順調だったわけではない。自分で何でもやれることは自分でやりたい、やり抜くんだと意気込んだ時期もあったが、安定的に長く経営を続けていくためには、外部の専門家に任せることも必要であり、従業員たちをそれぞれの個性に合わせて育てることも大切であると得心しながら邁進してきた。

いつも従業員には、お客様の信頼を守るために安全で安心な農産物を生産する『職人意識』を持って欲しいと伝えている。そのひとつの形としてASIAGAP認証※を取得し、具体的に安心・安全・持続可能な農業をどのように実現していくかについて共通理解を深めている。また、SNSや電話で寄せられるお客様一人ひとりの声に真摯に向き合うことも忘れない。

このように、企業理念としてきた「農業という仕事に自信と誇りを持って」に宿る繊細・信念・信頼・社会貢献の行動指針をブレずに実践している。

 

■地元を守る

『有限会社米山農産』を承継してからちょうど10年が経った。

現在、父は役員も退き、母と義隆さんの役員2人と従業員8人が共にある。事務全般を切り盛りする娘さん以外は全員男性。その年齢は20~60代に分散していてほどよくバランスが取れている。前職を定年退職した後から加わった60代のベテランが気働きを発揮する傍らで、体力のある若い世代が機動力になって、お互いに支え合いながら会社を動かしてくれている。しかしながら、もう少し贅沢を言えば、女性や新卒生が仲間に加わって欲しいと考えている。義隆さんが幼かった頃の農業とは様変わりし、農機具の使い勝手も格段に改善されたため、機械に不慣れな人やあまり体力がない人でも安心してできる作業が増えており、加えてハウス内の育苗における細やかな管理や6次化製品の販売・開発を行なうにあたっては、女性や若い人の感性が必要だと感じている。

またもう一方では、過疎化が進む地元において、これからどのように貢献していくべきかを模索している。根底には「農業は『地域』に在って成り立つ。だから『地域』に返していく」という義隆さんの強い信念がある。これまで、青年団や入善ライオンズクラブにおいて先輩方が自分を可愛がって育ててくれたように、後輩たちにもこの恩を送っていきたいと考え、地域の多くの人に積極的に関わっている。だから、取材中もひっきりなしに地元の方たちが事務所を訪れて来られていた。

今日も義隆さんは「何が足らんかなぁ」と自分自身に問答し、明日の農業と地元のために解決するべき課題を見つめている。

 

 

※ASIAGAP認証:GAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)とは、農業において、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取組のことです(農林水産省にサイトよる)。その日本の認証制度としてJGAPがあり、さらにアジアでの基盤を目指して作られたのがASIAGAP認証です。GAP認証は大手小売店での調達基準や輸出受入の際に求められるようになってきています。

 

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有限会社米山農産  HP:https://yoneyamanousan.jp/

代表取締役社長 米山 義隆

富山県下新川郡入善町新屋168

TEL 0765-78-0030

yonenouoz.fitweb.or.jp

 

Instagram : https://www.instagram.com/yoneyamanosan/

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